【追悼】ザンデルリンク (10) ベートーヴェン"交響曲第3番英雄"1981

ザンデルリング、追悼特集。
ザンデルリンクファンでない方からは、もういいでしょ?と言う声が聞こえてきそうですね。(笑)

さて、今日は世間では不評なフィルハーモニア管弦楽団とのベートーヴェン交響曲全集から、第3番英雄をお聴きいただきます。
この全集、どういう経緯で行われたかあまり詳しくないのですが、EMI名義で録音がなされたのは第九番のみで、後はアビー・ロードスタジオで録音はされてはいるがEMIとクレジットされないものや、そもそもアビー・ロードスタジオではなく、ロンドン録音とのみクレジットされているものもあります。
この辺に、録音に恵まれなかったザンデルリンクらしさがでていますね。
私が持っている全集CDは廉価盤のためが音が悪く、また編集も、第1番の第4楽章が第9番のCDのトラック1に入っていたり、いかにもどうしても5枚に収めたいといった制約の中で作られたものと言う感じがします。
これほどの指揮者の唯一のベートーヴェン全集の数少ないCDがこんなやっつけ仕事のような形で世に出ているわけで、まあ、それほど売れなかったと言うことでもあるのでしょうが・・
伝えられているのは、クレンペラーの代役でフィルハーモニア管を振ることになったわけですが、演奏会でやったベートーヴェンチクルスの評判が良かったので、レコーディングすることになったようです。
お聴きください。
【ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調『英雄』作品55】
クルト・ザンデルリング指揮
フィルハーモニア管弦楽団、
1981年、アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン
リッピングドライブ:MATSHITA CD-ROM CR-594
リッピングソフト:POIKOSOFT Easy CD-DA Extractor
PC : Windows XP Pro Core 2 Quad Q6600 2.40GHz
AVI作成ソフト:AVIMAKER
FLVへのエンコーダソフト:MediaCoder
音声はMP3
ドライブ変更しました。
第1楽章 Allegro con brio
第2楽章 Marcia funebre:Adagio assai(#18:37~)
第3楽章 Scherzo:Allegro vivace(#36:07~)
第4楽章 Finale:Allegro molto(#42:40~)

いかがでしたか?
恐らく、ザンデルリンクのファンでもここは好みの分かれるところでしょう。
ドイツ音楽やドイツ風の重厚で風格のある演奏がお好きな方、或いはブラームスやブルックナーを振るザンデルリンクを評価する方は、ダメでしょうね。
私としては、言われているほど、この演奏に関しては悪くないと思います。
ザンデルリンクは、いつもどおりやるべき事はやっていると思います。
ただ違うのは、オケ、演奏家がドイツ、ドイツ人でないということです。
イギリスのオケです。イギリス人ですよ。
このフィルハーモニア管との演奏で分かりましたが、ザンデルリンクは強い個性でオケや音楽を縛り上げ作り変えていくことはしませんので、曲、一緒にやる演奏家の個性、力量等に大きく左右されると言うことです。
ザンデルリンクは、演奏する上でのいろいろな要素、曲のテンポ、楽器バランス、オケの音色や奏者の個性、力量など全て与えられた要素を調和させながら、無理をせず、着実に音楽を構築していきます。
ここで聴けるベートーヴェンも、もしそのままオケがベルリン交響楽団だったらどうでしょう?シュターツカペレ・ドレスデンの響きが加わったらどうでしょう?ドイツ人のドイツ音楽に対するより自発的な表現力が加わったら・・
そういった期待を込めていくとこの演奏は物足りないです。ドイツ的でないですし、ドイツ的な響きも楽しめませんので。ここに聴くフィルハーモニア管には私たちがドイツ音楽に対し感じる何かが足りないんです。
それは私たち日本人がベートーヴェンをやるのと同じです。
ザンデルリンクは、伝統に縛られない、頑固で、そしてとても現代的な指揮者だと思います。
私は最初チャイコフスキーやラフマニノフを聴いてファンになったわけですが、もし最初に前回のブラームスを聞いてもこれほどまでに心動かされることはなかったでしょう。
勿論、氏のブラームスは素晴らしいです。ベルリン響の演奏もシュターツカペレとの演奏も。
しかし、あの様な音楽を可能にしたのは、ソビエト時代があったからです。レニングラードでムラヴィンスキーの指揮を毎日つぶさに見、ショスタコーヴィッチと親交を重ねる中で、どれほどこの亡命先の文化、精神に影響されたか。
だからこそ、他の誰もまねの出来ないブラームス、ブルックナーが生まれたんだと思います。
それと、氏のロシア音楽はとても無理がなく、ブラームスやベートーヴェンの演奏に感じる、こうあらねばならないといった気負いのようなものを、私は感じません。ロシア的では決してありませんが、ザンデルリンク自身、内にあるものがそのままストレートに出ている、そんな演奏に思います。
先に紹介しました、1973年の日本公演のベートーヴェン8番が収録されていたCDのライナーに、シュトゥットガルト放送交響楽団のトロンボーン奏者として何度かザンデルリンクと演奏されたことのある山本雅章氏が寄稿していらっしゃいますので、少しご紹介します。
”----------- 再びマエストロがシュトゥットガルト放送交響楽団の指揮台に立ったのは(東西ドイツ再統一後の)1993年の3月であった。開口一番、彼の口から強烈な一言が飛び出した。「私は、共産主義者です」これにはオーケストラのみんなが唖然とした。------ 中略 ------ 今にして思えば、この東ドイツの崩壊を嘆き、警告する真情から出た言葉であったと思う。
プログラムはブラームスの交響曲第3番。その練習の時、彼を救い育ててくれたソヴィエト・ロシアを含む「東」の文化に対する彼の思いがひしひしと伝わってきた。
「この音楽はまさにあなたたちのものです。」
「あなたたちはそのまま弾くだけで本当に美しい音楽になります。」
「アメリカ人は苦労します。そんまま弾くだけではブラームスになりません。」
「ロシア人にとっては自分のものでなくてとも、ブラームスは美しく響きます。」
「あなたたちが悲しいと思うことを、ロシア人もとても悲しく思います。」
「あなたたちが嬉しいと感じることをロシア人もとても嬉しいと感じます。」
「あなたたちが美しいと感じることことを、ロシア人も・・」と言いかけると、図らずもオーケストラ全員が一斉に「・・・とても美しい!」と唱和したのである。
彼の時流に抗ってまでも言わずにはおられない、勇気ある真情の吐露をみんなが痛切に理解した瞬間だった。
------ 中略 ----- 
彼の音楽の特色は、伝統的ないし、懐旧的、と言ったものではなく、今、ここに響く美しい音楽を追求し、表現しようとする意欲に原点がある。”
ザンデルリング、追悼特集。
次回は、最終回です。
PC音源は、メインシステムで聴きましょう。
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