キム・ヨナの演技を考える Vol.1

『キム・ヨナへの評価を巡って』の続きです。

オリンピックも終わりフィギュアの興奮も結構冷めて…  なんて書き始めていたんですが、書きそびれているうちにもう世界選手権と言う時期になってしまい、今更引退したキムヨナでもないだろうとは思うのですが、まあ備忘録ということで、書き留めておこうと思います。
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以前も書きましたが、私はキム・ヨナの演技はそれほどは見てきていません。ただその安定した演技は、やはり感心はしていました。それに、なんだかんだいっても、結果を残しています。

ジャッジの評価が高い。

そんなの八百長やってるからだろ?
金渡してんだから当然。

なんてこと多くの人が思っているかもしれませんが、特に姫ファンはね、でも、それ本当なんですかね、って思います。

確かに、全く何もなく真っ白、とは思いませんが、キム・ヨナのこれまでの競技生活で与えられた成績、評価、全て八百長によるもので嘘っぱち、何てこと、皆さんほんとに思っています?

普通に考えればそんなことが毎回毎回まかり通るわけもないことくらい分かりそうなもので、今の自分は、その辺を素直に認めることが出来ていると言うことなんですが、それはやはり、フィギュア・スケートと言う競技の素晴らしい演技を楽しみたいと言う気持ちが出てきたからかと思います。

そんなの前からなかったの?って感じでしょうが、以前は日本人を応援するとか、贔屓のスケーターを応援するとか、と言うような楽しみ方だったので、結果に一喜一憂したり、逆に成績なんか無視したりで、ジャッジスコアーに対しても批判的でまともに見ていませんで、競技としては楽しんでいなかったように思います。

 

ということで、まだ全部ではありませんが、彼女の過去の演技をまとめて色々見てみた感想としては、彼女は、フィギュア・スケートと言うスポーツ競技の一つの理想、或いはスタンダードを創ったスケーターだな、と言うことです。

恐らく、現在のこの競技に求められている要素、全てをある理想的なレベルで成し遂げている選手、それがキム・ヨナなんだろうと思いました。

勿論得て不得手ありますから、全部が最高と言うのは無理ですが、それでもその中で各要素が高いレベルでバランスを保っていると思います。

キム・ヨナの演技については、上手いのは分かってる、とにかく点が盛られすぎなんだ、と言うことなのかもしれませんが、とりあえずそれは置いときます。笑
 

【ジャンプ】

で、その彼女の演技の中でも評価されるのはまずジャンプですね。3回転-3回転のコンビネーション。助走のスピードもありそれを維持したまま高く、遠くへ飛びます。まあ、荒川さんによりますと、苦手なジャンプの前で減速しているのをうまく隠しているらしいですが… そしてランディングも流れがあって綺麗。それに演技の中で自然と行われるので、演技の雰囲気を壊さず、見ているものに安心感を与えます。そして何より、必ず(99%以上)成功します。しかも今言った要素を高いレベルで保ったまま。

そんな選手、これまでいませんでした。

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こんなの分かってるよって感じでしょうが、やっぱりこの基準により合ったジャンプをしていると言うことなんだと思います。

羽生選手は、これから自身が目指す究極の演技として、ジャンプが技に見えない演技、と言っています。ジャンプが演技に溶け込んでいく演技。こういうジャンプの実現は結局、このGOE評価ガイドラインを高いレベルで実現していくことに他ならないと思うのですが。

そして、キム・ヨナはそういうジャンプ、そういう演技を実現しつつあったように思います。いえ、まだまだだったかもしれませんがそれを目指せる唯一の女子シングルのフィギュアスケーターだったことは間違いないですね。

ただ、回転不足に関しては、回転不足に見えるものも、比較的<が刺さらないという印象はあります。例えばバンクーバー・オリンピックのSPのこれなんかを見ると、3Lz-3Tは3Lzは許容範囲としても、3Tは回転不足に見えます。<が刺さってもおかしくはない、って思ってしまいます。

でもフィギュアファンなら常識でしょうが、ジャンプの回転に関してもその基点やら着氷の判定やら色々な決まりがあってそれは「ISUハンドブック」に規定されているわけで。しかもそれをどう解釈し運用していくかになると、素人がとやかく言うのもどうかと言う気がします。

そんな中で、「Figure Skating Guideline」というサイトは、素人にも分かりやすく、ISUの基準に則った解説を資料込みでしてくれて、正面から疑問を解決してくれるサイトです。

これもフィギュアファンには有名なサイトでしょうね。

回転不足に関しては、特に「回転不足判定の誤解?」http://openaxel.blog14.fc2.com/blog-entry-122.html
と言う記事に分かりやすいので、まだご覧になっていない方は、是非。

このジャンプのことだけでも、この記事を読むと、テクニカルなことに関して、素人がテレビ映像を元に、ごちゃごちゃ言うのはもうやめませんか?って言う気になります。

 

【振り付けと表現】

彼女の演技で特徴的なのはジャンプと同じくらい重要な要素として、曲、振り付け、でしょうね。

彼女の演技は、バンクーバーの時の演技のせいか、やる気がなく、ふにゃふにゃ、省エネ、と今も言われているのかどうか分かりませんが、その当時結構言われていましたが、彼女の演技をずっと見ている人は分かると思いますが決してそんなことはないです。

確かにバンクーバーの時の演技はそういう感じがありましたが、少なくともあれは振り付け師が作った振り付けですからね。別に彼女が即興で演じたわけではない。演技上動きが途中で止まる瞬間があって、それについても、浅田真央はずっと動いているが、キム・ヨナは途中で休んでると揶揄したものです。笑 実際はそういうプログラム、振り付けなんであって、キム・ヨナはそれを演じているだけ。そんな当たり前のことが日本国内、特にネットの中で堂々とキム・ヨナ落としに使われていました。

逆に、彼女を褒めるとすれば、振りとは言え、一旦動きが止まってしまうと演技全体の流れが止まってしまう危険があるものですが、彼女の場合そんな印象はなかったですよね。

音楽の流れをしっかり捉えて集中している証拠です。

彼女の演技を集中して見てみると、その振り付けが音楽に合っていることが分かります。鈴木明子さんの『愛の賛歌』ほどではないにしろ、振り付けが音楽にしっかり同調している。しかも、実際に演技できるように余裕を持たせているように私には見えました。一杯振りを詰め込んで選手が振り付けに追いつくのに精一杯になるようなこともなく、曲想が変わる瞬間はしっかりそういう演技に入れる。無理がない。これは彼女の振り付けのほとんどを担当してきたデビッド・ウィルソンの功績大ですね。彼の振付けなくして現在の彼女の成績はなかったでしょう。

ただ、キム・ヨナに表現力があるか、となると、どうでしょうね…

「表現力」と言った時の意味にもよるんでしょうが、私は彼女は、曲を解釈し、それを与えられた振り付けで的確に表現する力、と言うのは恐らく女子シングルの中では一番だと思います。その振り付けの中に出てくるポーズ一つひとつが的確で、こういう曲でのこういうポーズは、こういう感じ、って言うのをちゃんと彼女は理解していますし、それをやり切れるセンス、能力、度胸があります。

ただ、彼女の演技は所謂クラシックバレエ的所作とか踊りを基礎から習った、と言うのではないので、格調高くありません。ダンスの選手が見せるああいう品のよさもあるわけではないですし。他の選手がそういう所謂クラシックバレエやダンス的な方向での演技を目指すことが多いですが、彼女の演技はどちらかと言えばショービジネス的で、俗っぽいです。そこが私が彼女の演技を「キャバクラのお姉ちゃんが踊っているみたい」と思った所以かもしれないですね。笑 この辺は、上手い、下手とは別に、好き嫌いでその評価は分かれるところでしょう。

あと、前後するかもしれませんが選曲が良いです。無理にクラシックなんかやらない。自分にあった曲、身の丈に合った曲、嗜好に合った曲、自分が理解共感できる曲を選んでいるように思います。私としては日頃聴きもしないクラシックを選んで共感できず、せいぜい振り付けをこなす程度で終わってしまうより良いと思います。

理解できない、浅い、共感が薄い曲は、どう練習してもその演技にそういった感じが滲み出てくるものですからね。

また曲の編集も良いと思います。これは振り付けにも通じることでしょうが、必ずと言って良いくらい毎回ちゃんと緩急をつけています。中間部はしっかり、ゆっくり、しっとりとした演技構成をしています。

こういうことからも、私的にはキム・ヨナの演技構成点は、他の選手より高くあるべきだと思っています。勿論、その時の演技の出来にもよりますが、今回のソチで言えば、ソトニコワの演技構成点は高すぎです。平均9点台の演技はしてませんし、そこまでのレベルの選手ではないです。

この演技構成点に関しても先に紹介した「Figure Skating Guideline」さんに「PCS再考察… 5コンポーネンツとは?」http://openaxel.blog14.fc2.com/?no=143

と言う記事がありますが、これに関してはいくら訓練を重ねたジャッジとは言え、そこに使われるさまざまな曲に関し、理解を深めることをどこまで出来ているのか、フィギュアスケートというスポーツ競技の審判がどこまで音楽に関し理解があるか疑問です。審判やるからといって、訓練してで出来るものと出来ないものがあると思います。

① スケート技術  Skating Skills
② 要素のつなぎ Transitions
③ 演技力/実行・遂行力 Performance/Execution
④ 振付け     Choreography
⑤ 曲の解釈   Interpretation

特に、③演技力/実行・遂行力、④振付け、⑤曲の解釈 は曲への理解があってこその評価になると思います。曲の理解が出来て初めて振り付けの意味も分かるでしょうし、そうして初めて、その振り付けを実行する選手の演技力の評価も出来てくると思います。

演者が曲をどこまで理解しているかなんて評価するのは、クラシック音楽コンクールの審査員ですよね。

まあ、そこまでではなく、フィギュアスケートというスポーツ競技のジャッジなりの能力が問われるんだとは思いますが、この3項目に関しては私はジャッジを信用していません。

まだ若くこれから、という選手の演技構成点がを押しなべて低めだったり、ジャンプに失敗が多いと判を押したように低かったり。

それに、2010バンクーバーの浅田真央の演技で、ラフマニノフの「鐘」と言う曲を、彼らがどこまで理解できていたか。日頃クラシックを聞いている人でも難しいというのに…

 

キム・ヨナは表現者ではありませんでしたが、曲を理解し、その曲想を的確に捉え演技に反映させる能力、センスに関してはずば抜けていました。
ポージングも素晴らしかったです。的確でした。好き嫌いは別に。

そういう選手、男子シングルやダンスには多いんですが、女子シングルには中々かいません。鈴木さんも引退ですしね。
 

そういう意味では、ちょっと寂しくなるのかも知れませんね…

 

 

つづく

 

 

 

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